請求書は10万円で出したのに、振り込まれたのは89,790円だった。

デザインの仕事をしていると、こういうことが起こります。差額の10,210円は「源泉徴収」として、クライアントが私の代わりに国に納めてくれている分です。

ただ、ここでややこしいのが、引かれる相手と引かれない相手がいること。私も独立したての頃は「どっちが正しいんだろう」と混乱しました。実はこれ、仕事の内容ではなく、支払う相手が誰かで決まります。

この記事では、制作会社17年から独立し4年目の私が、報酬から源泉徴収される側の目線で整理します。対象になる仕事、引かれない理由、計算方法、そして確定申告で戻ってくる仕組みまで。

※税制は変わることがあります。この記事は一般的な仕組みの紹介です。個別の判断は国税庁の公式情報を確認し、迷う場合は税理士に相談してください。

源泉徴収とは?個人事業主は「引かれる側」になる

源泉徴収とは、報酬を支払う側が、受け取る側の所得税をあらかじめ差し引いて、代わりに国に納める仕組みです。

会社員だった頃は、給料から天引きされるものでした。独立すると立場が変わって、クライアントから報酬をもらうときに引かれる側になります。

ここで大事なポイントが2つあります。

①これは「取られている」のではなく「前払い」です

引かれた分は、確定申告のときに精算されます。払いすぎていれば戻ってきます。損をしているわけではありません。

②源泉徴収するかどうかを決めるのは、支払う側です

自分で選べるものではありません。「源泉徴収しないでください」とお願いするのは、実はルール違反にあたります。逆に「引いてください」と頼むこともできません。判断は相手側にある、というのが最初につまずきやすいところです。

デザイン料は対象。でも「Web制作」は判断が割れる

まず、どんな仕事が源泉徴収の対象になるのかを見ていきます。

法律に名前が載っている仕事

源泉徴収の対象は、所得税法204条1項で決められています。デザイナーやライターに関係するのは第1号で、そこには「原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬」と書かれています。

つまり、デザインの報酬は、はっきりと対象として名指しされています

このほか、税理士・弁護士・司法書士などへの報酬、講演料、モデルや外交員への報酬、芸能関係の報酬などが対象です。逆に言えば、ここに挙がっていない仕事は原則として対象外ということになります。

「Web制作」の扱いは、実はグレー

ここが実務で一番モヤモヤするところです。

法律に載っているのは「デザインの報酬」であって、「Webサイト制作」ではありません。そのため、コーディングやシステム開発の部分は対象外という解釈が一般的です。

では、Webサイト制作を一式で請け負った場合はどうなるのか。

ここは専門家の間でも見解が分かれています。 「デザイン部分が含まれるなら対象」という考え方もあれば、「サイト制作という一体の役務であって、デザインの報酬とは別」という考え方もあります。デザイン費とコーディング費を請求書で分けた場合の扱いについても、意見が一致していません。

私の場合は、Web制作もすべて引かれています

ここからは実務の話です。

私が請け負っている案件でいうと、Web制作も含めて、法人クライアントからの報酬はすべて源泉徴収されています。 デザイン単体の仕事か、サイト制作を一式で受けたかに関わらず、です。

つまり、制度上はグレーでも、実務の慣行としては「引く」方に倒れているというのが私の実感です。

これは考えてみれば自然なことで、判断するのは支払う側だからです。企業の経理としては、迷ったときに引いておくほうが安全側の処理になります。引かずに後から指摘されるより、引いておいて受け取る側が確定申告で精算するほうがリスクが小さいわけです。

なので、「これは対象外のはずだから引かれないだろう」という前提で資金繰りを組むのは危険だと思っています。私は基本的に「引かれる前提」で入金額を見積もるようにしています。

なぜ引かれない相手がいるのか

対象の仕事なのに引かれない。これには、もうひとつ別の理由があります。

支払う側が「源泉徴収義務者」でない場合は、そもそも源泉徴収されません。

源泉徴収は、誰でもやっているわけではありません。義務があるのは、法人や、人を雇って給与を支払っている個人事業主などです。

つまり、こういう相手からは引かれません。

  • 従業員を雇っていない個人事業主
  • 給与の支払いをしていない一般の個人

個人事業主同士の取引で引かれないことが多いのは、これが理由です。相手が悪いわけでも、間違っているわけでもありません。

私も個人事業主の方から仕事をいただくことがありますが、その場合は源泉徴収されずに請求額がそのまま振り込まれます。冒頭で「引かれる相手と引かれない相手がいる」と書いたのは、まさにこのことでした。仕事の内容ではなく、支払う側が誰かで決まる。ここが分かってから、ようやくスッキリしました。

なお、「引かれなかった=申告しなくていい」ではない点には注意してください。引かれていない場合は、その分の所得税を確定申告でまとめて払うことになります。前払いがなかった、というだけの話です。

むしろ引かれていない取引が多い年は、確定申告のときの納税額がまとまって大きくなります。私はここを見誤らないように、源泉徴収の有無を取引先ごとに記録するようにしています。

いくら引かれる?源泉徴収税額の計算

計算式はシンプルです。

支払金額が100万円以下の場合

支払金額 × 10.21%

冒頭の例だと、10万円 × 10.21% = 10,210円。手取りは89,790円になります。

支払金額が100万円を超える場合

(支払金額 − 100万円) × 20.42% + 102,100円

100万円を超えた部分だけ税率が上がる仕組みです。

消費税を含めるか、含めないか

ここは知っておくと数千円単位で変わります。

原則は消費税を含んだ金額に税率をかけます。ただし、請求書で報酬額と消費税額をはっきり分けて書いている場合は、消費税を除いた報酬額だけを対象にしてもよいことになっています。

つまり、請求書の書き方ひとつで引かれる額が変わるということです。前払いなので最終的な損得は同じですが、手元に残るキャッシュのタイミングは変わります。資金繰りを考えるなら、分けて書いておくほうが有利です。

端数は切り捨て

計算結果に1円未満の端数が出たときは、四捨五入ではなく切り捨てです。地味ですが、請求額と振込額が1円合わない原因になりがちなので覚えておくと安心です。

請求書にはどう書く?

私が使っているのは、こういう形です。

項目金額
デザイン費100,000円
消費税(10%)10,000円
小計110,000円
源泉徴収税額△10,210円
お支払金額99,790円

ポイントは3つです。

  1. 報酬額と消費税を分けて書く(前述のとおり、対象額が変わります)
  2. 源泉徴収税額をマイナスで明記する
  3. 最終的な振込金額まで書く

3つめが地味に効きます。ここを書いておかないと、クライアント側で計算してもらうことになり、金額の食い違いが起きやすいんです。先に自分で計算して出しておくほうが、結果的にお互い楽でした。

当然ですが、源泉徴収されない相手には、この行は入れません。前述のとおり、個人事業主のクライアントなどが該当します。相手が源泉徴収義務者かどうか分からないときは、先に確認しておくと請求書を出し直さずに済みます

引かれた税金は、確定申告で戻ってくることがある

ここが一番大事なところです。

源泉徴収された分は、その年の所得税の前払いとして扱われます。確定申告のときに、1年分の所得税を計算して、すでに引かれている分を差し引く。

  • 引かれた額のほうが少なければ → 差額を納める
  • 引かれた額のほうが多ければ差額が還付される

個人事業主の場合、経費や各種控除で所得が下がるので、還付になるケースは珍しくありません

逆に言うと、申告しなければ戻ってこないということです。引かれっぱなしになります。

申告のときは、1年間にいくら源泉徴収されたかを合計して記入します。これを正確に出すには、支払調書を待つのではなく、自分で記録しておくのが確実です。支払調書は必ずもらえるものではありませんし、届く時期もバラバラなので。

私は会計ソフトに都度入力しておいて、年末に集計するようにしています。ここを溜めると本当につらいので、請求書を出したタイミングで一緒に処理するのがおすすめです。

会計ソフトではどう記録する?

源泉徴収された売上の記録は、少しだけクセがあります。

請求額と入金額が違うので、「入金された額」だけを売上にしてしまうと、売上が過少になります。正しくは、請求額の全額を売上に立てて、引かれた分を別に管理する形です。

具体的には、こんなイメージです。

  • 売上:110,000円(請求額の全額)
  • 普通預金:99,790円(実際の入金)
  • 差額の10,210円:仮払税金などの科目で管理

科目名は会計ソフトによって呼び方が違います。多くのクラウド会計ソフトには源泉徴収の入力に対応した機能があるので、それに沿って入れれば大丈夫です。

私はマネーフォワードを使っていますが、請求書機能から源泉徴収を含めて発行すると、そのまま帳簿にも反映されます。手入力する箇所が減るほど、間違いも減るので、このあたりは素直にソフトに任せています。

会計ソフト選びについてはこちらの記事にまとめています。

2027年から仕組みが変わります(ただし金額は同じ)

最後に、知っておくと安心な話を。

2027年1月から、防衛特別所得税という新しい税が始まります。源泉徴収にも関係する改正です。

ただ、引かれる金額そのものは変わりません。

これまでの「復興特別所得税2.1%」が「防衛特別所得税1.0%+復興特別所得税1.1%」に組み替わるだけで、合計は2.1%のまま。だから10.21%という数字も変わらない見込みです。

変わるのは内訳の名前と構造だけ。「税率が上がるらしい」という話を聞いても、受け取る側の手取りに直接の影響はないと考えて大丈夫です。

※改正内容は今後変更される可能性があります。実際の運用時期が近づいたら、最新情報をご確認ください。

まとめ

  • 源泉徴収は「取られている」のではなく所得税の前払い
  • デザインの報酬は対象。ただしWeb制作一式の扱いは専門家でも見解が分かれる
  • 引かれない相手がいるのは、支払う側が源泉徴収義務者でないから
  • 計算は100万円以下なら10.21%。消費税を分けて書けば対象額が下がる
  • 端数は切り捨て
  • 確定申告をしないと還付されない。引かれた額は自分で記録しておく

独立したての頃、私は入金額の違いに戸惑ってばかりいました。でも仕組みが分かってしまえば、むしろ税金を先に払ってくれている、ありがたい制度でもあります。

大事なのは、引かれた分を確実に記録して、申告で取り戻すこと。ここを取りこぼさないためにも、日々の記帳を仕組み化しておくのが結局は近道でした。

制度の細かい判断は個別事情で変わります。迷ったら国税庁の公式情報を確認し、必要に応じて税理士に相談してください。

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